大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和27年(行)65号 判決

原告 大谷健次郎

被告 大阪国税局長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年六月十三日付書面を以てなした中京税務署長の同年一月二十四日付書面による原告に対する酒類小売販売業免許拒否の行政処分が適当である旨の裁決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書地において従来免許を得て酒類小売販売業を営んでいた訴外吉津友吉の営業権を譲受け、同訴外人の従業員名義で昭和二十六年二月一日より同年八月中旬まで酒類小売販売業を営んでいたところ、当時同訴外人が、中京税務署間税係の勧告により前記営業の廃業届を出したので、原告もやむなくこれを止め、食糧品販売業に転じたが、古くからの酒屋がなくなりその附近一帯には他に酒屋がないため住民の不便もあり、且つ、原告も漸くその業務に慣れて来た時でもあつたので、同年八月三十一日酒税法第十七条に基き中京税務署長に酒類小売販売業の免許を申請したところ、同署長は昭和二十七年一月二十四日付書面を以てこれを拒否するとの処分をした。そこで原告は右処分に対し同年三月十九日被告に訴願を提起したが、被告は請求の趣旨記載の如く原処分を支持する裁決(以下本件裁決という)をなし、同月十六日原告に通知した。然し乍ら中京税務署長の右拒否処分は次のように酒税法に違反し、これを支持した本件裁決も違法であるから、取消されねばならない。即ち原告は酒税法第十八条各号(以下本条各号という)の何れにも該当しないから同署長は免許を与えねばならないのにこれを拒否したのである。今本条各号につき考察するとき、原告が第一乃至第四号に該当しないことは明白だから、結局第五及び第六号該当の有無が判断されねばならない。然るに原告は、酒類小売販売業を営むといつても単に壜詰を販売し、或はそれから量り売りするのが、業務の内容で直接酒税を納付する義務者の立場にいないから第五号には該当せず、また原告の学歴その他酒類販売に約二年間従事したことのある経歴からしても取締上不適当と認められるような者でないから第六号にも該当しないそれ故原告は本条各号のいずれにも該当しないから、中京税務署長の免許拒否処分は違法であると云わねばならない。ところが被告は、本件裁決において、酒類販売業の免許申請に対しては、資金関係既存業者との距離人員の制限等の一般的条件の外次の五つの資格要件の一を具備する者に限りこれを許可する方針であるとして、(1)戦災又は応召による廃業者、(2)登録落又は企業整備による廃業者並に外地引揚者、(3)酒類販売統制会社、酒類配給公団又は酒類業団体に二年以上在職した役職員、(4)昭和十三年四月一日以後二年以上酒類販売業を経営したことのある者で戦災、企業整備等に、基かないで自発的に廃業した後復活しようとする者、(5)前同日以後において酒類製造者又は酒類販売業者の使用人として酒類の製造業又は販売業に三年以上従事したことのある者という五つの条項を挙げ原告は(1)乃至(4)に該当せず(5)の場合であるが過去において三年以上の経験がないのでこれにも該当しないから免許を与えない旨述べ恰も原告が封建的徒弟制度の経験者でないことを免許を与えない理由とする如くであるが、現在民主々義の国家において、かような非民主的行政観念は憲法第二十二条職業安定法第二条に違反するものと云わねばならない。(原告に免許を与えることは、公共の福祉に反するものでない)それのみでなく、その他の条項も前記憲法の規定の趣旨に照らして判断すると、いずれも容認できないものであるからかような基準に基いて為された本件裁決は憲法違反の処分だと云わねばならない。よつて被告の本件裁決は酒税法違反、憲法違反の処分であるからその取消を求めるため本訴に及んだと述べた(立証省略)。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、訴外吉津友吉が免許を得て酒類小売販売業を営んでいたこと、その後同訴外人がその廃業届をしたこと、原告が同訴外人の営業権を譲受けて実質上自己の営業として、昭和二十六年二月一日より同年八月中旬迄酒類小売販売業を営んだこと、及び原告が、昭和二十六年八月三十一日中京税務署長に酒類小売販売業の免許申請をしたところ、同署長が昭和二十七年一月二十四日付書面で拒否の行政処分をしたので原告が更に同年三月十九日被告に訴願を提起したが、これに対し被告が同年六月十三日付書面で原告主張のとおりの理由により同署長の右処分は適当である旨の裁決をなし、これを同月十六日原告に通知したことは認めるが、その余の主張事実は争う。抑々酒類販売業免許の処分は、次のように行政庁(税務署長)の自由裁量だから、本件裁決は訴の対象にならないのである。即ち酒税法は酒類販売業者に酒類製造者に対する納税資金中間調達機関としての機能を果させ酒税を確保するために酒類販売業者の続出乱立を防止し以て業界の安定を図ることを目的として、これを政府(税務署長)の免許に係らしめているのであるから、右の免許は、その性質上、当然税務署長の自由裁量に属するのである(このことは酒税法第十八条ノ二が、免許に際し附款を附することを認めているのに照らしても明らかである。)本条第五号は、右のことを規定したに外ならない。勿論自由裁量というも行政官(税務署長)に一応の基準を示しておくことは行政上望ましいことだから、国税庁長官においてこれを作成し、昭和二十四年十月一日以来数回に亘つて通達しているのであり、本件裁決における原告主張の(1)乃至(5)の資格要件は右基準の概要を示すものでその趣旨は、酒類取扱に関し、相当の知職と経験を有すると認められる者を具体的に指示するにある。蓋し、酒税法は、酒税徴集の確実を図るため酒類販売業者に対し複雑な記帳検査申告等諸種の義務を課しているし、租税特別措置法第二十五条第二項は酒類販売業者をも、直接に酒税の納税義務者とするから、酒類販売売業者は酒類の取扱に関し相当の知識と経験が必要でありこれを欠くと認められる者は、本条第五号にいう「酒税保全の為にする販売の統制上免許を与うるに不適当」な者と云うべきだからである。そして前記(1)乃至(5)の順序は、一種の優先順位を定めたもので、戦争のために自己の意に反して廃業したいわば戦争犠牲者や、酒類統制団体の解散により失職した役職員(その殆んどはかつて酒類販売業者である)を優先的に元の業務に復帰させようとの政策的配慮に基くのである。仮に一歩を譲り、本件免許処分が法規裁量だとしても、酒税保全の為にする販売の統制という行政目的よりして、その裁量の範囲は相当に広範であり、前記基準は、その裁量の範囲内において法の予定するところを具体的に解明したものだから、これに従つてした本件裁決には何等違法の点はなく、右基準に達しない原告は本条第五号に該当するのである。次に原告は、酒類販売の取締上不適当な者ではないと主張するが、原告が免許を受けないで他人の従業員名義を以て、約半年間、実質上自己の業営として酒類小売販売業を営んだことは、原告自ら主張するところ、であるが、右は明らかに酒税法の認めない脱法行為であり、かような脱法行為を敢えてする者は、取締上免許を与えるに不適当であることは、多言を要しないから、原告はこの点においても、本条第五号又は第六号の「前各号の外取締上不適当と認むる者が免許を申請したるとき」に該当すると言わねばならない。それ故中京税務署長は本件免許拒否処分をする際右事実をも考慮したのであり、被告も亦これを考慮して本件裁決をなしたのである。従つて被告の為した本件裁決はいずれにしても適法であるから原告の本訴請求は失当であると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告が肩書地において従来免許を得て酒類小売販売業を営んでいた訴外吉津友吉の営業権を譲受け、同訴外人の従業員名義で昭和二十六年二月一日より同年八月中旬まで酒類小売販売業を営んでいたこと、その頃同訴外人がその廃業届をしたこと、及び原告が同月三十一日付で中京税務署長に酒類小売販売業の免許申請をしたところ、同署長が昭和二十七年一月二十四日付書面で拒否処分をしたので、原告が更に同年三月十九日被告に訴願を提起したがこれに対し、被告が、同年六月十三日付書面で原告主張どおりの理由により同署長の右処分は適当と認める旨の裁決をなし同月十六日原告に通知したことはいずれも当事業間に争がない。

被告は本件免許処分は自由裁量であるから、訴の対象とならないと主張するが、行政処分について行政庁が自由裁量権を有する場合に於ても裁量の自由というものは無制限とは解せられなく、行政庁の裁量権にも自ら一定の限界がありその限界を超えてした行政処分は違法たるを免れないから、単に行政処分が自由裁量に属するというだけの事由では右処分が裁判の対象にならないということができない。しかのみならず国民の権利自由を制限剥奪する行政処分は原則として法規裁量に属するものと解すべく、職業選択の自由は憲法の保障するところであつて国民は公共の福祉に反しない限り自由に職業を選択し、これを遂行するの権利を有するものであるから、酒類販売業の免許を受けないでこれを営むことを禁じている場合に右免許の申請を拒否するが如き処分は国民の権利自由を制限剥奪するものであつて所謂法規裁量に属するものというべきである。酒税法第十八条にも「第十四条、第十六条及前条ノ規定ニ依ル免許ノ申請アリタル場合ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ政府ハ其ノ免許ヲ与ヘサルコトヲ得」と規定し、免許の申請があつた場合には、政府に対し、原則としてこれを与えることを命じ、ただ法定の例外的事由ある場合にのみ、これを拒否することが、できると定めていること、及び、右の例外的事由の存否は、本条各号の規定を、酒類販売業免許の趣旨たる酒類販売の公正と、酒税の確保という行政目的に照らして解釈することによつて決定すべきことを考え合わせると、本件免許の処分は、行政庁(税務署長)の所謂自由裁量に属するものではなく、酒税法の規制する範囲内における裁量即ち法規裁量と解するを相当とする。従つていずれにしてもこの点における被告の主張は採用の限りでない。

成立に争いのない甲第三号証によると被告は本件申請に対して免許を拒否した事由の一は原告が酒類販売に経験が少ないということである。そこで酒類販売の経験が少ないということは本条により免許を与えない事由とすることができるか否かを考えてみるに、本法は酒類販売の公正と酒税の確保上不適当なる者が酒類販売業を営むことは公共の福祉に反するものとしてこれ等の者には免許を与えないことを得るものとしているものと解すべきところ、酒類販売の経験の極めて少ない者に酒類販売業を営ませることは酒類販売の公正という見地よりするも酒税の確保という見地よりするも適当なるものとは言い難いので本条第五号によりこのような未経験者の申請に対しては免許を与えないことを得るものと解せられる。しかるに原告は昭和二十六年二月一日より約半年間酒類販売に従事したことは当事者間に争いがないが、原告主張の如く二年間もこれが営業に従事したことを認めることができる証拠がないから、原告は酒類販売の経験の極めて少ない者というべく原告の申請に対して免許を与えなかつたことを以て違法と解することができない。更に原告が右約半年間訴外吉津友吉の従業員名義で、酒類小売販売業を営んでいたことは当事者間に争いがなく右甲第三号証によると原告は訴外吉津友吉の従業員ではなく、同人の承諾もないのに勝手に同人の名義を使用して事実上原告自身の営業を営んでいたものであることを認めることができる。そうだとすると、原告の右行為は酒税法第十七条第一項本文第六十四条第一項第二号に該当する犯罪を構成するものというべきである。

そして酒税法に違反する行為をした経歴のある者に対して、同法を守ることを期待することは困難であるから、原告の本件免許の申請は本条第五号に所謂「酒税保全ノ為ニスル製造又ハ販売ノ統制上免許ヲ与フルニ不適当ト認ムルトキ」に該当するものというべく、政府はこれが免許を拒否することができるから、原告の申請に対して免許を与えなかつた中京税務署長の処分は相当であつて、これを支持した被告の裁決を違法ということができない。その他本件裁決にはこれを取消すに足る瑕疵がないから、原告の本訴請求はその余の争点に対する判断を待つ迄もなく失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 前田覚郎 福井秀夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!